土井ちゃんの著書とロシアのドーピング問題

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敗北のない競技 僕の見たサイクルロードレース 土井雪広著 東京書籍 2014年 

土井ちゃんこと土井雪広選手は、自転車プロロードレース選手である。
ヨーロッパのトップカテゴリのレースを走り
日本人として初めてブエルタ・ア・エスパーニャに出場・完走した。

8年間ヨーロッパで闘い、その経験を綴った本書を読んだのは一年前。
土井ちゃんが自転車選手になった経緯や様々な選手との交流、
トレーニングの実際など、とても面白い本だ。

しかし同時に大変ショッキングなことが書かれている。
ドーピングのことだ。

ウィキによると
ドーピング(英: doping)は、スポーツなどの競技で運動能力を向上させるために、薬物を使用したり物理的方法を採ること、及びそれらを隠ぺいしたりする行為。オリンピック、競馬など多くの競技で禁止され、違反行為となる。

私は運動能力に影響を与える薬は全て使用禁止だと思っていた。
ところが実際には「禁止薬物のリスト」があり、そこに載っている薬だけが使ってはいけないのだ。
禁止リストの他に「監視プログラム」と言われる物があって、こちらは検出されてもお咎めはないが
状況によっては禁止リストに移されることもある。
さらに効果がありながらも監視プログラムにさえ載っていない薬も多々ある。

本書87ページより
ーーーーー
ある時、チームドクターが僕にA、Bという二つの薬を渡してこう言った。
どちらも合法だから心配はいらない。Aは痛み止めだ。ゴールの1時間前になったら、Bと一緒に飲め。
痛み止め、という彼の説明には違和感を覚えた。何か別のものなんじゃないか?けれど結局、僕は言われた通りにした。
”痛み止め”は強烈に効いた。
薬を飲むのがはじめてだったせいかもしれない。乳酸でパンパンになった脚からは痛みが消え、興奮状態になった気がした。僕は、一番苦しいはずの最後の1時間を飛ぶように走り、上位でゴールした。自分の体に何が起こったのか、理解できなかった。
後でわかったことだけれど、AとBは当時WADAの監視プログラム下にあった薬だった。つまり「ドーピングには相当しない」。しかしアスリートによる乱用が認められたAは後に、一定以上の量は使用が禁じられるようになった。今はもう使われていないはずだ。Bは今も監視プログラムの下にある。
(中略)
Cという薬もあった。これも後に監視プログラムに入った。
Cは末期ガンの患者にも使われる、めちゃくちゃに強い鎮痛剤だ。量によってはモルヒネ並みの効果がある。レースの終盤、苦しい局面では、脚がものすごく痛くなる。でもCはその痛みを吹き飛ばす。だから、そこからさらにペダルを踏んでいくことができる。
痛みは、体が発するサインだ。それを打ち消してさらに無理をするということは、体にとって害があるに決まってる。
Cにはたくさんの副作用があり、中には命に関わるものもある。ドクターには1日2錠が上限だと言われていた。
でも、こういう薬を飲んでいる選手と飲んでいない選手とでは、他の条件が同じならば勝負にならない。合法の薬でもそのくらいの効果はあった。だから、ほとんどのプロは使っていた。たとえば、2011年のツールである選手がラルプ・デュエズを上るステージを獲ったけれど、その時の彼はCを3錠飲んでいたという。レース後、彼は副作用に相当苦しんだらしい。
ーーーーー

レース終盤になると選手達はテレビカメラに映らないように薬を飲む。
だから普通にテレビ観戦をしている限りファンには分からないことだが
合法な薬を飲むのはプロの選手なら当たり前のことだという。

土井ちゃんの本を読んでようやくドーピング問題の本質が分かった気がした。

禁止リストや監視プログラムを決めるのはWADAだ。
禁止リストに載らなければ合法であり、合法ということは製薬会社にすれば売れるということ。
「少しでも運動能力に影響が認められる薬は禁止」では無い以上
その決定権を持つ組織は大きな権力を握ることになる。

対象は製薬会社に限らない。
特定の国やチームでよく使われている物質を
監視プログラムから禁止リストに移すとかその逆とか
タイミングを含めて、あれこれとやろうと思えばやれる。

3月にテニスのシャラポワ選手のドーピング問題が起きたが
あれこそずっと使ってきた薬が
監視プログラムから禁止リストに移されたことによるものだった。

繰り返しになるが監視プログラムの薬を使うことは「合法」である。
運動能力の向上のために薬物を使用すること自体は
その薬物が禁止リストに載っていないなら「合法」なのである。
それが現在の世界のルールになっている。

私を含めてほとんどの日本人は、この実態を知らない。

ロシア陸連が組織的にドーピング違反をしていたとして
リオ・オリンピックへの出場が危ぶまれている。
おそらくWADAの言っていることは本当だろう。

では、ロシアだけか?
他にも怪しい国は少なくないのではと思う。
WADAが調べないから表に出ないだけ。
どこを調べるかはWADAの勝手だという点で
プーチン大統領が「政治的」と批判するのは至極尤もだ。

人は自分の価値観を基準にして物事を判断しがちだ。
ドーピング問題の実態や世界のルールをよく知らないままに
「ロシアは怪しからん」とか「選手が可哀想」とか
言っても始まらないように思う。

ドーピング禁止の理由は
・スポーツの価値を損うため
・フェアプレイの精神に反するため
・健康を害するため
・反社会的行為であるため、社会や青少年に悪影響を及ぼすため
だという。

であれば
「運動能力に影響を与える薬は全て使用禁止」
を目標とすべきだが、
WADAがそこを目指しているようには思えない。
実際に禁止リストに入らない薬が数多く存在しているのだから。

その裏にはやはり「利権」が絡んでいると考えざるを得ない。